2025/10/18
人生の最終段階における適切な意思決定支援(ACP: Advance Care Planning)に関する指針
1. 基本指針
ハーヴィスクリニックでは、人生の最終段階を迎える患者さまが「その人らしい最期」を迎えられるよう、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等を踏まえ、多職種による医療・ケアチーム(以下「医療チーム」)が協力し、患者さまおよびご家族等と十分な説明と話し合いを行います。
そのうえで、患者さまご本人の意思を尊重した医療・ケアの提供に努めます。
2. 「人生の最終段階」の考え方
現代の超高齢社会において、誰もが健康なまま最期を迎えることは困難です。
病状の進行や急変の仕方は人それぞれであり、「人生の最終段階」の形も多様です。
- 突発的な急変による死(例:急性疾患・心停止など)
- がんなどの疾患で比較的元気に過ごした後、数か月で急速に悪化する経過
- 心不全・呼吸不全・脳血管障害など、徐々に臓器機能が低下する経過
- 認知症など、長期間をかけて緩やかに全身機能が低下する経過
こうした多様な経過に応じて、患者さま一人ひとりに合った医療とケアを行います。
3. 人生の最終段階における医療・ケアのあり方
- 医療従事者は、病状や治療方針などについて適切な情報提供と説明を行い、患者さまが十分に理解した上で意思決定できるよう支援します。
- 患者さまの意思は時間の経過や体調の変化により変化する可能性があるため、繰り返し話し合いを行い、その都度確認します。
- 意思を伝えることが難しくなった場合に備えて、信頼できる家族等を「代理意思決定者」としてあらかじめ指定しておくことを推奨します。
- 医療チームは、医学的妥当性と適切性を踏まえたうえで、医療・ケアの内容を慎重に判断します。
- 苦痛や不快な症状を可能な限り緩和し、身体的・精神的・社会的な支援を含む包括的ケアを行います。
- 生命を短縮させることを意図した積極的安楽死は、本指針の対象外とします。
4. 精神科的・心理的支援への配慮
- 不安、抑うつ、せん妄など精神的症状への適切な対応を行い、安らかな最期を支援します。
- 精神症状が身体的苦痛の表現に影響する場合があるため、疼痛管理と心理的支援を一体的に行います。
- 意思決定能力が一時的に低下する場合には、症状が安定しているタイミングで意思を確認します。
- 患者さまが安心して話し合えるよう、十分な時間と配慮をもって対話を行います。
5. 医療・ケア方針の決定支援
(1)患者さまの意思確認が可能な場合
- 患者さまの意思決定を基本とし、家族等の意見も尊重しながら、厚生労働省ガイドラインに沿って医療チームが協力して方針を決定します。
- 状況変化に応じて患者さまの希望を再確認し、必要に応じて話し合いを重ねます。
(2)患者さまの意思確認が困難な場合
- 代理意思決定者がいれば、その意見を尊重します。
- 家族等が推定できる意思をもとに、医療チームが慎重に方針を決定します。
- 家族等がいない場合は、医療チームが患者さまの最善の利益を考慮し、慎重に判断します。
6. 意思決定内容の文書化
- 話し合いの内容、患者さまの希望・価値観、医療・ケア方針は診療録に記録します。
- 必要に応じて「診療計画書」や「DNR(心肺蘇生を行わない)指示書」などの文書を作成します。
- 状況や希望の変化に応じて随時更新します。
7. 障害・認知症などによる意思決定困難への対応
- 厚生労働省の関連ガイドライン(障害福祉・認知症意思決定支援)を参考に、できる限り本人の意思を尊重します。
- 家族、関係者、医療チームが協働して、本人の最善の利益に基づく方針を決定します。
8. 身寄りのない患者さまへの支援
- 信頼できる関係者や行政、地域包括支援センター等と連携し、厚生労働省「身寄りがない人への支援ガイドライン」に基づいて対応します。
9. 倫理的検討の場の設置
- 医療・ケア方針の決定が困難な場合や意見が分かれる場合は、当院の「臨床倫理カンファレンス」で検討します。
- 必要に応じて外部の専門家(倫理・緩和ケアなど)の助言を受け、多角的に最善の方針を検討します。
10. 職員教育・研修体制
- 終末期ケア研修:全職員を対象に、年1回以上の基礎研修を実施します。
- 評価と改善:事例検討会を定期的に行い、ケアの質向上に努めます。最新のガイドラインに基づき随時見直します。
参考資料
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)
- 障害福祉サービス等に係る意思決定支援ガイドライン(2017年)
- 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン(2018年)
- 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援ガイドライン(2018年)
- 日本医師会 生命倫理懇談会「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」(2020年)